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さて、しばらく間が空いてしまいましたが「ミステリー作家の人となり」シリーズ、第5弾は綾辻行人さんの巻です。…まあ「巻」ってほど、たいそうなものでもありませんが。 綾辻さんという作家は、私にとってはちょっと特別な存在で、「本格」の才能のきらめきをいちばん感じさせた人だと言っていい。別に言えば、デビュー作でもっとも畏怖を感じさせた作家です。もちろん「本格」に特別な才能を感じさせるミステリー作家はほかにもいらっしゃって、島田荘司さん、東野圭吾さん、法月綸太郎さん、有栖川有栖さん…まだまだいますけれど。 でも、たとえば島田さんは、私がその存在を知ったとき、すでに堂々たるプロ作家でした。世代的にも少し上になるし、最初から別格の感じですね。東野さんは乱歩賞作品から読んでいますが、初期のころは感性は若いけれど、オーソドックスな本格ものを書く作家、という印象が強かった。のちにあれだけ多彩な小説世界を展開する人だとは、予想できませんでした。こちらはどんどん化けていったタイプ。 一方、綾辻さんの『十角館の殺人』は、いきなり度肝を抜かれた、という印象でした。島田さんの『北の夕鶴…』を読んだときも、その着想のとんでもなさに、この人天才だわ、と思いましたが、『十角館…』の綾辻さんは年下だっただけにショックだった。こんなのがどんどん出てきたら、オレなんか入り込む隙間もないよなぁ…と思っていたら、あとからあとから、またすごい人が出てきちゃうし。 『迷路館…』もお見事でしたが、私がいちばん衝撃を受けたのは、やはり『時計館…』でした。あれはもう、正真正銘、何十年に一度の大トリックですね。おそらく日本のミステリー史が続く限り、『本陣…』や『刺青…』や『占星術…』と並んで、残ってゆく画期的な傑作でしょう。ただし好みから言うと『霧越邸殺人事件』なんですが、それはまた別の話になります。 そんなわけで綾辻さんと初めてお話しする機会に恵まれたとき、私がすぐにお訊ねしたのは、「時計館のトリックみたいなアイデアですが、あれはどうやって生まれるんですか」ということでした。正確には、こう質問したはずです。 「アイデアはじっくり考えを煮詰めていってひねり出す、という感じですか。それとも、突然ひらめく、という感じなんですか?」 というのも、私の場合は前者なんですよね。まあ私は本格風に書いてはいますが、純然たる本格ミステリーじゃないし、綾辻さんと比べられてはたまりませんけど。それでも抽象的なヒントから条件を詰めていって、具体的なアイデアに辿り着く…という方法なら、一応やり方は知っている。 だから綾辻さんも前者だとしたら、まだ工夫の余地があるかもしれない…と思っていたのですが、3秒くらい考えた綾辻さんのお答えは、 「突然、ひらめきますね」 「…あっ。…やっぱり」 それじゃあ、どうにもならんわな。参考にもならん。結局は生まれつきの才能ってことですか。 「だったら、ひらめきが来るための前提条件とか、そういうのはないんですか?」 私はなおも未練たらしく食い下がる。こういうことをすると、ひらめきやすいとか…そんなのが、何かあるんじゃないですか。たとえばお湯に浸かっているときとか、散歩してるときとか、千枚漬けでお茶漬けをかっこんでるときとか。 「あまり…ないですね。そういうのは」 …とほほ。とりつく島もないお答えですね。でもそれが本当なんでしょうから、仕方がない。 というわけで「あわよくば綾辻さんからアイデア着想法をgetする」大作戦は、あえなく水泡に帰してしまいましたが、綾辻さんという方はあれだけ実績も人気もある作家なのに、とても気さくにお話ししてくれますね。なんというか、ミステリー大好きのミス研メンバーがそのまんま大人になったような雰囲気がある。 たとえば『暗黒館…』の話になったとき、例のメイントリックについて、 「あれにはすっかり騙されましたよ。種明かしまで読んでびっくりした」 と私が言うと、 「へぇー、そうですか? それはめずらしいなあ。僕の周りじゃ、みんな途中で気がついたって言ってますよー」 …そりゃ、綾辻さんの周りにいる人って、筋金入りの本格ファンばかりなんでしょ。私なんか完全に騙されちゃいましたよ。けど、なにもそんなこと、自分から言わなくてもいいのに。ほんとに気取りのない人ですねー。 そのうちに話が私の作品に及びました。といっても、綾辻さんは『剣と薔薇…』はお読みになっていなかったので、旧作の『名探偵は…』シリーズの話です。あれは本格といってもジュブナイルですから、正直言って、そんなにむずかしくはない。綾辻さんのような方に話題に出されるのは、ちょっと照れくさかった。 すると綾辻さん、妙なことを言い出しました。 「ぼく、小野不由美ってのと一緒に住んでるんですよ」 「…はあ」 それは知ってますよ。てか、ミステリー関係なら誰でも知ってますって。 「その小野不由美がね…なんというか、そのう」 なぜか、急に言いよどむ風情です。何を言い出すんだろう、綾辻さん? …長くなったので、以下はまた後日に続きます。 |
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