(元)ミステリー作家T・A  あさっての日記

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zoom RSS 私の好きな芸談 〈六代目 三遊亭圓生〉

<<   作成日時 : 2015/08/06 11:56   >>

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趣味の話で申しわけありませんが、ちょっと落語家さんの芸談というか、芸にまつわるエピソードをご紹介してみたいと思います。
私はこの「芸談」というやつが好きで、よく読んだり聞いたりしています。小説だって「文芸」というくらいですから、芸のうちには違いない。それも話芸とはかなり親和性があるはずですから、名人と呼ばれた師匠方の芸談には、小説の創作にも通じるところが多々あると思うのです。
で、今回は六代目三遊亭圓生のエピソード。

圓生は私が落語を聞くようになったころ、すでに大御所でしたから、いまの若い人はご存じないかもしれません。
1900年生まれですから、もし存命なら115才になっているはずです。
1979年に亡くなり、たまたま上野動物園のパンダが同じ日に死んだので、翌朝の新聞ではパンダは第一面の大きな記事になり、圓生師匠の追悼記事は社会面に小さく載っただけ。
弟子のだれだかが、「あんなに何十年も稽古を積んで、当代の名人と呼ばれた師匠でも、パンダに負けるんだものなあ」と嘆いていたのを思い出します。

さて、その圓生さんが七十歳くらいの頃のことです。
すでに落語協会の会長もやり、戦後の名人のひとりに数えられるようになっていました。
ちなみに戦後江戸落語の名人といえば、桂文楽、古今亭志ん生ですが、この二人が亡くなったあと、圓生はまさしく第一人者として斯界に君臨していました。

手持ちの古典噺が三百席。ふつう五十席できれば真打ちになれると言いますから、桁違いの芸力です。
そんな大御所の圓生が、あるよその門下の二つ目に電話を掛けてきました。
二つ目というのは、前座の上で、真打ちの下、まだ芸人としては半人前。
びっくりした二つ目がおそるおそる電話に出てみると、
「あなたは『竹の水仙』という噺を覚えているそうですな」
といきなり質問されました。

「竹の水仙」というのは、もともと上方のネタだったものですが、この当時はもう忘れられていて、できる人がほとんどいなくなっていた。たまたま、この二つ目さんの前の師匠がそれを知っていて、彼は師匠からこの噺を教わった、ただひとりの弟子でした。
その師匠もすでに亡くなり、今は同門の別の師匠に付いていたわけですが、ともあれ「竹の水仙」を演じられる、唯一の東京落語家になっていたのです。

だから圓生さんから尋ねられたとき、おずおずと「いちおうは覚えておりますが」と答えます。すると、「では、ご足労ですが、あす、私の家に来ていただけませんか」

おそるおそる新宿区柏木にあった圓生宅を訪ねると、玄関にわざわざ師匠が迎えに出て、「さあ、どうぞどうぞ」と奥の客間に通されます。
床の間を背にした上座に、りっぱな座布団が敷かれていて、「どうぞ、そちらへ」と勧められたから、二つめさんはびっくり仰天。

圓生師匠に稽古をつけてもらうのだって大変ありがたいのに、師匠を差し置いて上座の座布団になど、とても坐れるものじゃありません。遠慮して縮こまっていると、きびしいと評判の圓生が、にこにこしながら、
「きょうはあなたに『竹の水仙』を教えていただきます。あなたが師匠で、私が弟子なんですから、遠慮なく上座にお坐りください。それから、稽古をつけてもらう弟子は座布団を使わないのが習いですが、私は年寄りなので、失礼して使わせていただきますよ」

こんな次第で、二つ目さんは大汗を掻きながら、なんとかかんとか「竹の水仙」を演じ終わりました。
雑談のあと、帰る段になります。
圓生師匠はまた玄関まで送ってくると、「きょうは本当にありがとうございました。この噺は来月の独演会で演じさせていただきますよ」と一礼して、「これは些少ですが」とお車代まで出してくれる。

すっかり恐縮して、二つ目さんがぺこぺこしながら玄関の戸を閉めようとしたとき、圓生師匠がこう言ったそうです。
「失礼ながら、あなたよりは上手く演じるつもりですので。悪しからず」

冷や汗びっしょりで逃げ帰った二つ目さんでしたが、翌月の圓生師匠の独演会を覗きに行ってみると、さすがは名人の芸。
「ああ、この噺はこんなふうに演じる噺だったのか……」
とすっかり感じ入ったということです。

どうですか、いいエピソードだと思いませんか?
圓生師は偏屈とか頑固とか言われたらしいですが、この話には、芸というものに対する深い敬意と、老境に達しても精進を忘れない姿勢、うんと若い後輩からでも学ぶべきものは学ぶ謙虚さがうかがわれて、私にはとても味わい深く感じられました。
もちろん私の「文芸」程度では、二つ目がつとまるかもあやしいでしょうが、こういう姿勢だけは学びたいものだと思っています。

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