(元)ミステリー作家T・A  あさっての日記

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zoom RSS 「推定脅威」 未須本有生

<<   作成日時 : 2014/08/11 17:54   >>

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今年度の松本清張賞作品です。
清張賞は冠がビッグネームで、版元が文藝春秋という超有名出版社のわりには、バカ売れすることもなく、話題になることがさほど多くない。しかし受賞作のレベルは例年高く、「プロアマ問わず」と公言されているとおり、プロの応募が目立ちます。渋好みの実力派というか、ちょっと異質な感じのする新人賞です。

従来、時代小説が優勢で、ここ2年は女性の書いた時代もの(ファンタジー風でラノベ寄り)が続いていましたが、今年は航空機ミステリー。ガチガチの、男性向け理系ミステリーです。

男性向けのせいか、性的なからみのシーンが頻出しますが、はっきり言って、これは要りません。男性読者へのサービスにしては、性描写があっさりしすぎて、せいぜいおっぱいを揉むくらいだし(あ、すみません)、それが本筋に関係してくるわけでもない。

率直な読後感は「わりとおもしろかった」ですが、全体としての印象は、素材のおもしろさが非常に際立ちます。
国産戦闘機のメカニズムがこと細かに語られるので、この手のメカネタが好きな人には、かなりおもしろく読めます。私もそうですけど。
しかしメカはちょっと苦手、まして戦闘機なんて興味ない…という人には、たぶん退屈でしょうね。
メカ部分の説明は、なかなかうまく書けています。理屈っぽくなるのは仕方ありませんが、情報が整理されていて、重複も欠落もなく、素人にもわかるように描かれています。この点が、いちばんの高ポイントかもしれません。

ストーリーは、国産戦闘機が国籍不明の侵入機を追跡しているときに、あるミスを起こして墜落し、パイロットは殉職します。この原因を探るため、製造元のメーカーの女性エンジニアが、上司や退職したその友人、テストパイロットなどの協力を得つつ、いろいろ調べていく…というものです。
そして第二の事故が起きる。
さらに第三の事故。
ようやく犯人像をつかんだ主人公と関係者は、次に犯人が打ってくる手を予測し、裏を掻く作戦に出ます。そして……

というお話で、私はなかなかおもしろく読めました。
ただ、物足りない点を挙げると、
人物描写があっさりしすぎていて、人物の体温が感じられない。主人公の女性のキャラは、まずまずと思いますが、そのほかがどれも描けていない感じがしました。基本的に、まだ小説を書き慣れていない印象。

もうひとつ、ストーリーの流れがスタンダードすぎて、意外性に乏しい。三分の二くらいで犯人がわかってしまい、
動機もありがちなもの。そのままラストまで進んでいくので、ああやっぱりね、という納得感はありますが、おどろきやカタルシスはありません。
もっとも社会派のネタですから、新本格みたいなツイストや仰天の結末はなくてもいい。
もう少し、構成の工夫で、読者に「あー、こういう話だったのか」と意外感を与えてくれたら、もっとよかった、と思います。

ひとつ気になったのは、これ、日本ではない国が舞台だったら成り立たなかったのかも、と思わせる点です。
つまり日本の自衛隊機は、憲法の規定があるので、領空侵犯機を見つけても、追尾したり信号弾を撃つだけで、先方から攻撃されない限り、撃墜はしません。
しかしアメリカやロシアや中国が舞台なら、このケースでは早い段階で撃墜されてしまうのではないでしょうか。少なくとも、これほど追尾に時間をかけてくれるほど優しくはない。

これって、集団的自衛権の憲法解釈や、武器使用の緩和とも関係してくるようにも読めるのでは――
などと思った私が深読みのしすぎなのでしょうか。
そっちをふくらませたら、また別のテイストのポリティカル・スリラーに仕上がったかもしれませんが。

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