(元)ミステリー作家T・A  あさっての日記

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zoom RSS 江戸川乱歩賞の危機?

<<   作成日時 : 2013/07/31 09:12   >>

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先日届いた推理作家協会の会報を読んでいたら、江戸川乱歩賞の選評が載っていました。一般には、乱歩賞作の発売(例年8月)まで目にふれないものでしょうが、興味をそそる記述が散見されたので、少しご紹介してみます。

その発言とは、石田衣良氏の選評の一節です。
「ミステリーは衰退しているのか? ……こと新人賞の応募作を見ると、江戸川乱歩賞だけでなく各新人賞でミステリーが占める割合は年々減り続けているようだ。力があってセンスのいい新人はみなライトノベルに流れ、ミステリーを志す若手は減少している。今回の最終選考に残った五人の平均年齢は五十歳を超えていた」

おどろきました。
有望な新人はみなライトノベルに流れている?
「みな」というのは修辞的表現でしょうが、ライトノベルに疎い私にはこれはショックだった。
そこまで力を伸ばしているジャンルなのか、ライトノベルって。最近では才能のある人が小説を書かずにマンガを描いてしまう、文学はマンガに才能を奪われている、という話はだいぶ前に聞きましたが、さらに新手のライバルが現れたのか。

なんだか、目の前で二十歳の森昌子に「涙の連絡船」を歌われた、都はるみの心境です。
――って言っても、若い人にはわからないか。
なら、香西かおりに「M」を歌われた、プリンセス・プリンセスの奥居香の気分。
――いや、これはちょっと違うかな。
それじゃ、イチローに最多安打記録をらくらくと超えられた張本勲の気持ち、とでも言うか。まあいいや。

そして、さらにおどろいたのが、最終選考に残った五人の平均年齢が五十歳を超えている、というところ。
私のイメージでは、乱歩賞は30代、せいぜい40代の受賞者が多かった。
たまに栗本薫さんや石井敏弘さんみたいに20代半ばで取る人もいるし、小森健太朗さんみたいに16歳で最終候補に残る、なんて早熟の人もいますが、候補者も受賞者もおおむね30代が多いと思っていました。
だって基本的には新人賞ですものね。推理作家協会の内規にも、
「優秀な推理作家の育成のため、江戸川乱歩賞を設け…」と記されています。
「育成のため」なんだから、一般的には年齢が若いほうが伸びしろがあると考えられるので、五十歳過ぎの候補者ばかりではちょっと困ります。

大学の医学科だって五十歳過ぎの受験生は学力があってもきびしいと言われますし…まあ、要するに、プロになってから何年くらい働けるのか、という観点はやはり欠かせないわけですね。
ただし、医師と小説家では、社会における存在意義がまったく違います。お米(パン)とアイスクリームくらい違う。医師はよほどの不祥事でも起こさない限り仕事を奪われる心配はありませんが、小説家は一生綱渡り。
プロデビューできたからといっても、向こうから仕事が来るのはまあ3年、せいぜい5年間くらい。その間にある程度の結果を出せなければ、お払い箱です。まことにきびしい。

しかしここ10年くらいの乱歩賞受賞者を眺めてみると、去年の高野史緒さんはプロだったから除外しても、たしかに40代以上の人が多くなった感じがします。

まあ平均寿命も延びているし、これからは日本社会は高齢化が本格化します。団塊世代の大量定年も一区切りつきました。リタイアした人たちのなかから、第二の人生に作家を志そうという人は増えるかも知れない。
それはそれでいいことかもしれません。

しかし受賞作について、選考委員(上記と同じく石田さん)に「最初の段階でこの作品にAをつけた選考委員はひとりもいなかった。…だが、作者は唯一の三十代と若い…新人作家冬の時代をなんとか生き延びて前進してください」
と言われてしまうのは、どんなものか。
受賞者の年齢が若いといっても、ひと昔前なら特にそう言及されるほどの若さではありません。

今回、石田さんが個々の作品の選評を越えて、上のような指摘をしてくださったことは、とても意味があったと思います。
いつの時代も、才能ある若い人、新しい世代の天才の登場が期待されるのは、かれらが、どんなにすぐれた作家でも既成作家には持てないものを、文学に持ち込んでくれるからです。
純文学ばかりではなく、形式の文学とされるミステリーでも同じこと。

たとえば新本格派の登場がそうでした。島田荘司さんの牽引によって、綾辻さん・有栖川さん・法月さんといった新本格第1世代がほぼ同時に登場することで、ミステリーの世界に大きな変化がもたらされた。
伊坂幸太郎さん、道尾秀介さんの登場もそれまでになかった新風を吹き込みました。
私の世代でいえば、『ぼくらの時代』で栗本薫さんが乱歩賞を受賞したのが大きかった。この作品を読んだとき、私は初めて、ミステリーが「おじさんたちの小説」から「ぼくらの小説」になりえた、と感じたものです。
それ以降の新人は、多かれ少なかれ、『ぼくらの時代』を意識しないわけにはいかなかった。

もちろん、年配の人が社会経験や人生経験を踏まえた傑作を書くことも大切です。それはジャンルを深化させます。けれど、やはり新しいものがどんどん育たないジャンルは衰退する。
その意味で、これは逆説になりますが、年配の応募者にはいちだんと頑張ってもらいたいですね。
そして、「やっぱり乱歩賞のレベルはハンパねぇな」と若造どもをうならせるような傑作を世に問うてほしいものです。
それでこそ、才能ある若手がチャレンジしてくる。新しい天才が育つ。遠回りのようだけれど、年配のチャレンジャーは若い新人が乗り越えるべき高い壁になってほしい。そう思います。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 オールドミステリファンとしては、生半可な知識ですが
社会派→新本格派→日常派→警察ミステリ
という流れで、ミステリが変貌しているような気がします。
 ここ数年の乱歩賞、横正賞、鮎川哲也賞のミステリを読んできましたが
主人公が、小学生から大学生で、その割には作者は40代以上の中年の方
が多いみたいで、もう、最近のミステリは中高年にはお呼びではないかなとの感想を持ちました。
 ミステリ関係のブログでも、取り上げられるミステリがやはり、若者が主人公
みたいで、ミステリ自身がライトノベルズ化しているのだろうとの印象を持っています。
 中高年は、小説など読まないので、読者層を若年層に絞るのだろうと思います。
 乱歩賞受賞者は、大学で純文学を研究している人らしいですね。ストーリーもなんか、過去で読んだような展開みたいで……。
 最近の賞を取ったものは、どれも面白くなく、だったら、定年退職者が頑張って、ミステリを書いてもらいたいなと思います。
 定年退職者だったら、いつでもミステリ文壇からリストラするのも簡単ですからね(笑)
 ところで、何作くらい、ミステリを読破したら、作家を目指すべきなんでしょうか。何かで、1000作とあったのを読んだような覚えが……。
 すると、中高年で、ミステリを勉強して作家を目指すのは無理ですね。
 何か、ずれたコメントですみません。
 
眠り兎
2013/08/08 09:52
コメントありがとうございます。
私自身、ミステリーの知識があまりないので(いえ、謙遜ではなく)、読書経験の豊かな方からコメントを戴くと、本当にありがたく思います。勉強になります。
なるほど、大まかな人気作品の流れはおっしゃるとおりですね。
ミステリー自身がライトノベルズ化しているとのご指摘も、同感します。たしかにそういった作品が多くなったことは否めません。カバーに萌え絵を使う本も増えましたしね。
中高年が小説など読まないのだとしたら、これは憂うべき現象ですが、ドラマの方では中高年のとくに男性はドラマを見ない、というのが定説のようですから、そのとおりかもしれません。
書き手としては、売れるように書こうとか、あるターゲット対象に書こうとしても、そうそううまくいくものではないと思います。結局、自分がいいと思い、得意だと思うものを書いていくしかないのでしょう。

今年は初めて乱歩賞の授賞式に行ってみるつもりですが、まだ未読なので評価はできません。石田さんの選評だと、強力に推されて、というより減点法で生き残ったみたいな感じを受けましたが…。
定年退職者は少なくともひとつは専門分野があるでしょうから、新人賞みたいな一発勝負ならそこそこ強いんじゃないでしょうか。そこから先が続くかどうかはわかりませんけども、
1000冊というのは私もむかし聞きました。まあ常識を知っておくという意味では必要でしょうが、ミステリー作家をめざす中高年ならそのくらいは読んでいるのではないでしょうか。定年のあと、0からスタートするのでは、確かにむずかしいですね。
しかし、何も知らない人の方が常識破りの発想をする場合もあります。意欲のある方はとにかく書いてみましょう、と思います。
戸松淳矩
2013/08/08 11:58

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