(元)ミステリー作家T・A  あさっての日記

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zoom RSS 「64」 横山秀夫

<<   作成日時 : 2013/01/21 13:33   >>

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昭和64年は、1月7日に昭和天皇が崩御されたので、1週間しかありませんでした。昭和元年は逆に、大正15年が12月25日に終わり、直ちに昭和に改元されたので、これまた1週間しかなかった。つまり昭和という時代は、その始まりの年と終わりの年がそれぞれ1週間だけだったのですね。これ、豆知識(おとなには常識でしょうが、大学生以下は知らないようです)。

というわけで「64(ロクヨン)」とは、7日間しかなかった昭和64年に起きた、ある事件をあらわす符牒です。どこで使われる符牒かというと、横山秀夫作品によく登場するD県警察。この年に発生した未解決の少女誘拐殺人事件のことを指します。
本作の作中時間は平成14年。ですからこの事件の時効まであと1年という時点。ちなみに、殺人事件の時効はこの時点ではまだ15年でした。

この作品については、たくさんの方が書評されていて、今さら付け加えることもありません。
最大公約数的なまとめをすると、
(1)前半、というより7割くらいまでは、いつもの横山ワールド。D県警内部の抗争とか、あつれきを、ある事件に絡めてねちっこく書いていく。ただし、いつものD県警ものは短編で、これは大長編だけに、内部のごたごたもスケールアップしている。
(2)後半は現在進行形の新たな誘拐事件が勃発。スリリングな誘拐サスペンス調になる。
(3)最後に64の事件と今の事件が結びつき、おどろきの真相が明らかに。

そんな感じなのですが、正直に言うと、前半を読んでいるとき、私はあまり感興をそそられませんでした。
地方の警察組織では、まず中央官庁である警察庁エリートと地元県警との、オモテには出ない鞘当てがある。次に、警察庁若手エリートがトップに降臨する警務部(一般会社でいうと人事、経理をふくむ総務部)と、地元たたき上げの出世頭がトップをつとめる刑事部(一般で言うと花形の営業部)との勢力争いがあります。
この作品の主人公は、元刑事でいまは警務部所属の、マスコミを相手にする広報官。
ですから、上の二つの抗争に加えて、さらにマスコミとの駆け引きという厄介ごとを背負わされます。
こうした三重四重のねじれた人間関係のなかで、だれがどんな目的で動いているのか、だれが味方でだれが敵なのか、霧の中を歩くような、さながらスパイ小説みたいなストーリーが展開されていきます。

ここまでのお話はたしかによくできているし、あわせて64の隠された真相がだんだんわかってくるプロセスは興奮をそそります。
しかし、こうした縄張り争いの根っこにある、ある「事実」が明らかにされたとき、私が感じたのは「おお、そうだったのか!」という衝撃ではなく、「…え? なに、そんなこと?」という脱力感の方でした。

なぜかといえば、作中人物たちにとっては大問題なのでしょうが、読者としての私には、「それ」があまりピンと来なかったからなのです。まあ、このへんは私個人が大きな組織に属した経験がないためかもしれません。会社や役所のなかで人事抗争を経験している方々には、ひしひしと感じられるナニかがあるのかもしれませんね。
しかし、少なくとも、小説の世界に引きずり込まれて主人公とともに一喜一憂する、という心境には私は至らなかった。

ところが、ここで大きな転調がある。絶妙のタイミングで新しい誘拐事件が発生するのです。
読みながら、私は「これが偶然だというんなら、ご都合主義がすぎるよなあ」と一抹の不安を抱いたのですが、さすがは小説巧者の横山秀夫、そんな凡手を打ってくるわけがありません。

読み終えていちばん感心したのは、この現在進行形の誘拐事件が自然なかたちで64の事件の解明とむすびつき、さらに前半でじっくり仕込んでおいた組織内トラブルの解決にも深くかかわってくることです。
この構成力はすごい。
ストーリーの色彩を途中からがらりと変えてくるミステリーはしばしばあります。が、転調がこんなに深い意味を持っていて、前後半をかっちりとつなぎ直している作品はめずらしい。
伏線をみごとに活かした「けれん」も鮮やか。

失礼ながら、横山さんというと、切れ味が勝負の作家で、短編の名手だと思っていましたが、ここまできっちり組み立てた力量を見せられると、この人は長編も上手いんだなあ、と改めて感心させられました。
ここ何年かの国産ミステリーでいえば、まちがいなくベストワンと言っていいでしょう。
これは読まないと損をしますよ。ほんとうです。

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