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先日、山村正夫先生のことを書きましたが、先生から戴いたアドバイスのひとつに、こういうものがあります。「アイデアはいちばん良いものから使いなさい。いつも、そのときのベストを放出すべし」 これには理由が2つあります。まず、アイデアを抱え込んでいるうちに、他人が同じものを思いつくかもしれない。創作の世界は早い者勝ち。いくらすばらしいアイデアでも、先にほかの作家が書いてしまえば、価値はなくなってしまいます。 もうひとつは、アイデアの出し惜しみをしていると、伸びる才能があっても伸び悩む。人間てのは本来怠けたいものなので、追い込まれないと底力が出ない。隠しているアイデアがあるうちは、これがあるから、と思って気がゆるむ。目一杯の力を出さない。反対にどんどん放出してしまえば、いやでも新しいことに挑戦せざるをえない。そうやって自分を追い込むことで、自分を育ててゆける。 …まあ、おっしゃるとおりなんだろうなー、と私も思っていました。とはいうものの、あまり身に染みてそう思っていたわけでもない。人間の考えることは似ているようで、やはり個性というものがあるから、そうそう他人が自分と同じことを発想するはずがない。それにどうせ、これからどんどん伸びる年齢でもないわけで…。 ところが、世の中というのはわからないもんです。山村先生のアドバイスを地で行くような体験を、ついこのあいだ、してしまったんですな。 その日は名古屋に出かける用事があって、往復の車中で読むために本を3冊持って行きました。いつも堅めの本と楽しみに読む本をセットで持って行くのですが、このときは『マンハント』という歴史ノンフィクションとミステリーの文庫本を用意しました。 ミステリーのほうは文春文庫で出たばかりの『陸行水行』、これは清張さんの短編集です。未読の短編が収録されているので東京駅構内の書店で即買い。もうひとつは創元推理文庫の『大鴉の啼く冬』、アン・クリーブスという英国本格派の新しき旗手の作品。英国推理作家協会賞作という、楽しみな一冊です。 さて『マンハント』、つまり人間狩りですが、これはリンカーン大統領を暗殺した犯人の逃亡記録を読み物に仕立てたお話。リンカーンを撃ったあと、犯人は南部へ逃れるのですが、彼を匿って手助けする南部派のグループと、これを追跡する北部派の水面下の闘いがそこで繰り広げられる。 じつは、この本は前々から資料に使おうと思って探していたもので、アマゾンで取り寄せたのがちょうど届いたんですね。それで新幹線のなかで目を通しておこう、と考えていました。 というのは、前作『剣と薔薇の夏』の4年後のニューヨークを書くミステリーの構想がありまして、そのサブストーリーとしてリンカーン暗殺事件をからませようと思っていたのです。とくに「暗殺のあと、何が起こったか」をメインして。 そこで暗殺事件の前後のことをぽつぽつ調べようかなと、そう企てていた。 この本はグッドタイミングで翻訳が出たので、こりゃ運がいい、と喜んでいたのですが…座席について、バッグから本を取り出し、サアと開いたとたんに愕然としました。表紙ウラに内容紹介がある。なかなか魅力的な惹句が並んで、フムフム、これは期待できそうだ。 が、そのいちばんおしまいに、こうあったのです。…「ハリソン・フォード主演映画化」 えっ。映画化されるの、これ? しかもハリソン・フォード主演で?ヲイヲイ、マジかよ。 めちゃメジャーな映画になりますよね、これって。 そりゃ、リンカーンはアメリカでは未だに歴代大統領の人気ナンバーワンだし、この本もけっこう読まれていると聞いています。オビに推薦書いてるのがパトリシア・コーンウェルだしね。 でも、日本ではそんなに読まれないと思うんだなあ。だいたい、日本人はアメリカ史にあんまり興味がないし。だからこそ資料に使えると思っていたのに、ハリソン・フォードで映画化なんかされちまった日にゃ、ストーリーの新鮮さはゼロにひとしくなっちゃいますよ。 せっかく書き上げても、「ああ、あの映画からアイデアをパクッたわけね」で片づけられてしまう。 まあメインストーリーのアイデアってわけじゃないから、作品そのものは成り立ちます。けれど重要なからみになるサブストーリーは、イチから組み立て直しだ。 なるほど、考えてみれば、創作の世界は小説だけじゃない。映画や演劇、最近では漫画やゲームにも優秀なクリエーターが大勢出ています。それだけに、いつどこでアイデアがバッティングするか、わかったものじゃない。 そういえば、坂木司さんとお話ししていたとき、いずれ使おうかと考えていた物語の舞台がおんなじだったこともありました。このときは物語の骨格となるアイデアというわけじゃありませんから、「どうぞ、お使い下さい」「いえいえ、お先にどうぞ」とうるわしく譲り合いとなりましたが、やっぱり人間の思いつくことは似通うことも少なくないようです。 それにしてもなー。ハリソン・フォードかよ。『シックスデイズ・セブンナイツ』で彼と共演したアン・ヘッシュって女優が、私は好きでさぁ。 あの映画で、ハリソンがアンのパンツに手を入れてサソリだか何だかを取ってやるシーンがあるんだよなぁ。妬ましかったねー、あれは。チクショウ。 ま、いい俳優ですけどね。 |
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