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今週から来週にかけて出張が重なったりして忙しいので、簡略に書く。まず「ですます」調はやめる。字数を喰うからである。 最近、筒井康隆『大いなる助走』を文庫で読み返した。再読とタイトルには掲げたが、たぶん四読めくらいであろう。何度読んでもおもしろい。カリカチュアもここまでいけば、芸術である。しかし当時の直木賞選考委員であった松本清張、水上勉、村上元三、源氏鶏太などを、いくらか文壇知識があればすぐにそれとわかるように戯画化して、おちょくったばかりか、かたっぱしから殺してしまうというのは、やっぱりすさまじい。ユーモア仕立てとはいえ、筒井康隆でなければ、こんなことはちょっとできまい。 その物騒な小説が直木賞の勧進元である文藝春秋から出たというのが、また文春らしくておもしろい。いまの文春にも、こんな洒落っ気というか、やんちゃを笑って見過ごす度量があるのだとしたら、すばらしい。それ以前に、かつての筒井さんのように、こんな危ないものを書こうという物書きがいるかどうか、そこが問題だが。 さて、ひるがえって今回の直木賞の選評を読むと、受賞者の松井今朝子さんがいずれも高く評価されている。私が読んだ唯一の候補作、桜庭一樹さんの『赤朽葉家の伝説』もなかなかの高評価のようだ。それはよい。 問題は北村薫さんの『玻璃の天』が落とされた、その理由である。ここで断っておくが、私はこの作品を読んでいない。ただ、同じシリーズの先行作を読んでいるので、その時代背景や筆致、作品の雰囲気、ミステリーとしての完成度などはわかっているつもりだ。 落とされた理由は、大きく分ければ2つの見解があるらしい。ひとつは「昭和初期という時代がじゅうぶんに描けているかどうか」、もうひとつは「ミステリー的部分が作品世界にそぐわないのではないか」。 だが、時代描写そのものに難があると言っているのは、たしか林真理子委員だけなので、それを除くと、要するに否定的な意見はひとつのことを言っていると見てよい。ミステリー的な要素がダメだ、ということだ。もちろん、ミステリーとしてレベルが低いというのではない。この作品に謎解きミステリーの要素を入れたことが良くない、というのである。 そうなると、たとえば『秘密』や『白夜行』を落として『容疑者Xの献身』に授賞したのはどうなんだろう、と疑問がわくが、それはここでは措く。 思い出されるのは、いま挙げた『白夜行』や『火車』のように、構成に工夫を凝らしたミステリー作品が、過去の選考で評価されなかったことだ。ミステリー、なかでも本格ものはきわめて「自意識」の強い小説ジャンルである。自己言及的と言われ、方法論に意識的と言われるのはそのためで、だからこそメタミステリー作品の傑作も多い。 それはミステリーが、作家の自分語りでもロマンチシズムでもなく、知的な構成物としての小説をめざしたという、その出自に由来するものだろう。このミステリー的な方法論へのこだわりは、一般小説のそれとは質を異にしている。 だから構成に凝らした工夫の「ミステリー的意味」が理解されなければ、点が辛くなるのは当然とも言える。 だが逆に言えば、そのように自意識の強い、方法論重視のジャンルだからこそ、ミステリーはさまざまな知的要素を取り込むことができる。笠井潔さんの『哲学者の密室』などはその好例である。 ミステリーを書く作家で、そのことに無頓着な書き手はおそらくいない。 したがって、直木賞にミステリー作品、ことに本格ミステリーをノミネートするのなら、評価の観点はミステリーの本質論に根ざしたものであってほしい。要するに「ミステリーとして完成度が高いかどうか」を観点としてもらいたい。 その特質的な部分をスルーされて、一般小説との共通部分で評価を下されるのでは、本格ミステリーを書く作家はハンディが大きすぎる。 もちろん、直木賞の伝統に照らして、やはり謎解き要素のある小説は高く評価できない、というなら、それでもよい。それもひとつの文学観である。だがそれならば、ハンディのある本格ミステリーをあえてノミネートする必要はないのではないか〈SFも同じかもしれないが〉。 その場合、直木賞に代わる高木彬光賞でも創設して〈乱歩賞も横溝賞もすでにあるので〉、そちらを授賞してはどうだろうか。協会賞との棲み分けがどうなるかむずかしいが、ミステリー系の賞が増えると、書き手としてはうれしい限りである。 …と、結局は我田引水になってしまったが、以上ざっと申し述べたのは、まじめに考えた結果には違いなく、以前から感じていたことである。 |
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