ミステリー作家戸松淳矩 あさっての日記

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help リーダーに追加 RSS 朝日ソノラマ解散を聞いて/最初の担当編集者、石井進さん

<<   作成日時 : 2007/07/25 03:58   >>

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今年の9月をもって、朝日ソノラマが解散するという知らせを聞きました。なにを隠そう、いや別にだれも隠しちゃいませんが、私のデビューは朝日ソノラマ文庫だった。まだ学生気分も抜けない26才?だったかな、初めて編集者というものに会った場所というのが、今はなき新宿の「談話室滝沢」。そこへ現れたのが、当時ソノラマ文庫をつくっていらした石井進さんです。

 石井さんとのあれこれはあちこちに書きましたが(このブログにも書いたかもしれません)、会うといつも、仕事の話が半分、残りの半分は論争?していたような気がします。というのも石井さんは広島カープと北の湖のファンで、私は当時、巨人ファンで貴ノ花ファンだった。あ、貴ノ花はもちろん初代のほうね。
 ちょうどあのころ江川投手の巨人入団問題という大騒ぎがありましたが、若い方々はもちろんご存じないでしょうね。法政のエースだった江川が、ルールのスキを突いたというかなんというか、一種のドラフト破りをして、巨人と契約をむすんだ事件です。すったもんだのあげく、江川はとりあえず正規の交渉権を得た阪神に入ったことにして、当時巨人のエースだった小林繁投手とのトレードというかたちで巨人入りした。
 世間はもう「悪役江川vs悲劇のヒーロー小林」でしたから、この件では、私もずいぶん石井さんにいじめられましたよ(笑)。人間としての良心があるなら、もう巨人ファンはやめなさい、と迫られたりして。まるで棄教を迫られるキリシタンの心境だね。ちょうど遠藤狐狸庵先生の『沈黙』を読んでいたので、ロドリゴ司祭の苦悩がよくわかりました…ってのは大げさすぎますが。

 それから幾星霜、さすがの私も、近年の巨人のデタラメな補強ぶりに愛想を尽かし、いつのまにかヤクルトファンに鞍替えしておった。ヤクルトファンというより、正確には古田敦也捕手のファンですな。だいたい私は梨田の近鉄、伊東の西武…とキャッチャーが好きになって、そのうちそのチームに肩入れするようになる傾向があるんです。
 だからヤクルトの強かった90年代後半は、野球がおもしろかった。ヤクルトリードで迎えた9回、マウンド上にはリリーフエースの伊藤智仁。伊藤というのはスライダーが決め球で、これがまたよく切れる。日本プロ野球史上、最高のスライダーだと言われていました。それをどこで投げさせるか。どうやってバッターを、あとはスライダーで仕留めるばかり、という状況に追い込むか。古田のリードがまた冴えていて、じつに良かったなあ、あの頃は。…まあ、そういう話はまた別の機会にゆずるとして。

 さて、石井さんの話です。一昨年の協会賞パーティのとき、その石井さんが駆けつけてくださって、かれこれ20年ぶりにお目にかかることができました。
 当日の私は、人生で二度とはないんじゃなかろうかという晴れ舞台。そこへデビュー作の担当編集者がお祝いに来て下さった。まさに感動の一瞬ですよ。
「やあ、おめでとう!」
「ああ、石井さん…あの節はお世話になって」
 笑顔で見交わす目と目。がっちり交わす固い握手。…いいシーンだよなぁ、これ。なのに、次の瞬間、感涙にむせぶ私〈笑〉に向かって石井さんが放った一言は、
「ねえねえ、まだ巨人ファン、やってんの?」

 あのさー。私、これから授賞式なんですけど。
 久しぶりに会って、しかもこんな場面で、いきなりそれですか。新橋の飲み屋で会ったオヤジどうしじゃないんだからさ、頼むよ石井さん。
 …と思ったのもつかの間、
「いや、それがね、さすがにイヤ気が差しちゃってね。…落合を獲ったあたりから、何だかなあと思い始めて」
「うんうん」
「清原でもうこれはダメかもと」
「ほうほう」
「で、ローズと小久保で完全にぶち切れた」
「そうだよねえ。あれはないよなあ。だいたいチームづくりってものがわかってないよね」
「そうなんだよねー。せっかく若手が伸びてきてたのにさ」
「そうそう。もったいないよなぁ。ほら、何て言ったっけ、あの外野の」
 気がつけば、すっかり飲み屋の野球談義だよ。

 そこへ新聞記者さんが何人か談話を取りに来たので、話は中断してしまいましたが、おかげで「ご感想はいかがですか」と女性記者に訊かれて、
「今年はヤクルトですよ」
 なんて、うっかり答えそうになっちまったよ。

 それにしても懐かしいですね、朝日ソノラマに通った80年代の日々。数寄屋橋交差点のそばで、よく最晩年の赤尾敏さんが街宣車の上から演説をしていたっけ。
 ソノラマの編集部は受付を通らなくても行けるようになっていたので、私はいつも裏階段から入っていました。菊池秀行さんとバッタリ会ったこともあったし、雑誌の連載中には、あと10枚分スペースをくれ、いや無理だ、と真剣に言い争ったこともあった。並木通りで食事しようと石井さんと出かけてみたら、その晩がたまたまクリスマスイブだった、なんてこともありました。どこのレストランもカップルや家族連れで満杯で、結局、鳥鍋屋に入ったあげく、私が悪酔いしちゃって…。 
 文芸出版のことはろくに知らなかった私は、石井さんに、それこそイチからいろんなことを教わりました。なにしろ石井さんは、小説を書き出したころの井上ひさしさんを担当してたって人ですからね。

 そういえば、銀座にはよく行くけれど、あの辺りにはもう何年も足を運んでない。会社がなくならないうち、ソノラマの社屋をぶらりと見に行こうかな…、と解散の知らせを聞いて以来、めずらしく懐古的な気分になっています。…これって、やっぱり老化現象なのか?!

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