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先日の記事で、ヘンリー・ウェイドの『議会に死体』は、タイトルが何とかならなかったのか、と書きましたところ、私用のアドレスにご質問を戴きました。 「あのタイトルの邦題に『白鳥の唄』って、どういうことですか」というお訊ねですが、説明不足だったようで、わかりにくかったかもしれません。どうもすみませんでした。 自分が知っていることは誰でも知っているような気がしてしまうもので、つい説明を省きました。もちろんミステリー読みに年季の入った方々には、蛇足でしょうが…。 本格ミステリーによく登場する謎のひとつに、dying messageがあります。死に瀕した被害者が最後の力を振り絞って、メッセージを残す…という、あれですね。たいてい犯人の名前だったり、それにつながるヒントだったりするので、謎解きの大きな手がかりになります。 この作品でもメッセージが残されていて、その解読が二転三転するのですが、最終行で意味がわかるという「最後の一撃」の手法が使われています。 ですから原題の「The Dying Alderman」は、たんに「死にかかっている市会議員」というだけでなく、dying messageという言葉の意味が被せられているのだろう、と思うわけです。 さて、そこで英語辞書を見ると、dying swanという慣用表現が載っている。瀕死の白鳥、という意味ですが、西洋には、白鳥は死の間際に初めて唄うという言い伝えがあるらしい。そこでこの言葉は「最後のひと言」「遺言」「遺作」「絶筆」などという意味に通じている。 ということで、dying Aldermanからdying swanを連想すると、議員の残したメッセージは「白鳥の唄」であった、というわけです。 ちなみに庄司薫さんの薫クン4部作のひとつ、『白鳥の唄なんか聞こえない』もここからタイトルをつけています。この小説は薫クンが、ガールフレンドの先輩の祖父の死をめぐって、あれこれ人生を考え、悩むお話ですが、その祖父というのが大変な知識人なんですよね。一説によると小林秀雄がモデルだとも言われます。じつは4部作のなかでは、私はこれがいちばん好きなんです。死が背景にあるだけに、ほかの作品にくらべると、暗くて重いタッチになっていますが、薫クンがもっとも真剣に人生の大問題と格闘しているような気がします。 ついでながら『赤頭巾ちゃん気をつけて』に出てくる東大法学部の大山先生というのは、丸山真男がモデルなんだそうです。…若き日の庄司薫さん、とてつもなく知的な空間に暮らしていらしたんですねー。丸山教授と銀座で何時間もおしゃべりしちゃってるんだもんなぁ。(いま手許に本がないので、記憶違いかもしれません。『赤頭巾』でなくて『黒頭巾』のほうだったかも) まあ、これは余談でした。 |
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