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というわけで、私が初めて東野圭吾さんとお会いしたのは、第一ホテル本館の授賞式パーティの控室。あとから思い返してみると、東野さんはそのとき「東野です。今日の司会を担当しますので」とおっしゃっていたらしい。私は桐野さんが目の前に座られたことですっかり舞い上がっていたので、その言葉を聞き漏らしちゃったんですね。 …桐野さんだけでもアガっていたのに、東野さんまで現れたんだから、もう大変。そのあとの十数分はほとんど記憶がありません。ただ、桐野さんが 「あら、東野さん、めずらしく早いじゃない。…あ、そうか、司会やるんだっけ」 とおっしゃって、 「そうでなかったら、こんなに早く来るわけないじゃないですか」 と東野さんが答えていらしたのだけは覚えています。そのときも会話の中味なんかより、 「…お、おれの前で、桐野夏生と東野圭吾がしゃべってるよー」と、もうそれだけで目眩がしそうでした。完全にミステリーファン心理になっちゃってます。真剣に「ここでサインねだったら、おかしいかな、やっぱり」とか悩んでましたもの。 そのあと、東野さんは司会者用のプログラムを持って、私のところまでやって来ました。 「えっと、トマツさんですね。お名前はアツノリさんとお読みするんですね?」 「…はい、はい」 「それから御本のタイトルは『けんとばらのなつ』ですか、それとも『つるぎとばらの…』?」 「…け、けんです。『けんとばら』です」 「はい、わかりました。けんとばらのなつ、と…」 このやりとりのあいだ、私は着席したまま。東野さんはすぐ側に立って、プログラムに書き込みをしているわけですよ。これ、ひとりのミステリーファンとして考えると異様な事態です。あの東野圭吾が話しかけてくれている、それに自分は着席したまま応じている…。まあ、こんなことは一生のうちにも、たぶん二度とないよなあ。 授賞式が始まって、大沢在昌さんが理事長挨拶、有栖川さんが長編賞の講評、桐野さんが短編賞の講評…と続いて、受賞者のスピーチはまず貴志さんから。そのあと、いよいよ自分の番が回ってきたんですが、このときはあんまりアガらなかった。控室からアガりっぱなしで、いいかげんアガることに慣れてきてたのかもしれませんね。 けれど、話し終えて降壇したあと、東野さんが私のスピーチに司会者として何かおっしゃっていたことは、全然耳に入らなかった。今度は緊張がいっぺんにほどけて、耳が馬鹿になっていたらしいんです。 あとで出版社の女性編集者に「東野さん、良いフォローしてくださいましたね」と言われて、はじめて「えっ? 東野さん、何か言ってくれたの?」とびっくりしました。 私が「…非力だけれど、戴いた賞を汚さないよう、ご期待に応えられるように、がんばります」みたいなことを言って、「まあ、みなさん、あんまり期待してもいないでしょうが」とちょっと冗談ぽく締めたのを、東野さんは 「いえいえ、期待しているからこそ、賞を差し上げるんですからね」 とにこやかに受けてくださった。これは後から思うに、ほんとにナイスフォローだったと思います。 貴志さんは何冊もヒット作を出されて実績十分ですが、私はほかに実績らしいものは何もない。会場にいらした方々もほとんどは「この受賞者って、誰?」と思っていたに違いありません。そんな私が自虐ギャグで話し終えたままだったら、ちょっと笑うに笑えないところがあります。…ほんとにこいつ、受賞者としてやっていけるのか?みたいな空気になっちゃいますからね。そこを東野司会者のひと言で、雰囲気がお祝いの席にふさわしい、華やかで和やかなものに戻ったわけです。 たぶん東野さんは二年前のそんな一幕はお忘れだと思いますが、私にとっては、終生忘れられない思い出になりました。東野さんにはひとつ借りができたかな、なんて思い出しては、その借りを返すには良い作品を書かなくっちゃ、と思っています。 |
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初めまして。戸松さんのブログ開設に大喜びしている一ミステリファンです。 |
眠り猫 2007/03/13 08:01 |
早速のコメント、ありがとうございます。アクセス解析を見て「始めたばかりなのに、多くの方が訪問して下さっているんだなあ」とうれしく思っておりますが、コメントを戴けるとまた格別にうれしいものですね。これからもたびたび頂戴できれば、たいへん励みになると思います。よろしくお願いいたします。 |
戸松淳矩 2007/03/14 04:08 |
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