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ミステリー作家になる人にはいろんなタイプがありますが、ひとつ共通しているのは、書き出す前は熱心なミステリーファンだったこと。好きが高じて病膏肓に入る、ついには自分で書いてみたくなる、というやつですね。中学時代にもう書き始めていた、という人もめずらしくありません。だから、みなさん、デビュー前の読書量もものすごい。 ところが私は小五で『バスカヴィルの犬』に出会っていながら、まっすぐにミステリー一筋に進んだわけじゃなかった。中学時代に熟読していたのは、なんと吉川英治『宮本武蔵』でした。それも布貼りの表紙で一巻本の古い版。それから司馬遼太郎に凝って読みふけった時期があります。高校から大学にかけてですね。このラインはそのまま、宮部みゆきさんの時代ものにまでつながっています。余談ですが、時代物では山岡荘八『徳川家康』全26巻を読破したというのが、ちょっと自慢。 そのあと純文学乱読時代というのがありまして、このときは谷崎潤一郎、三島由紀夫、吉村昭、北杜夫などをよく読みました。この流れはその後、村上春樹に行って、今は町田康あたりに至り着いています。ほかに女流作家耽読時代というのもあった。幸田文さんあたりから始まって、最近では高樹のぶ子、小川洋子、江國香織ときて、そろそろ金原ひとみでも読もうかと思っているところ。 そうそう、ユーモア文学偏愛時代もありました。これは井上ひさし、筒井康隆に突入してから獅子文六に先祖返りし、ウッドハウスなど洋ものにも手を広げています。 要するに何が言いたいのか。こんなにいろいろ読んでるんですよー、と自慢でもしたいのか、というと、とんでもない。この世界には途方もない読書家がたくさんいて、私なんか足下にも及ばない読みの達人、鉄人が山ほどいらっしゃる。…で、速読の人ならともかくとしてですね、読むのが遅い私があれこれミステリー以外の分野を読み漁っていたら、はたしてどうなるか。必然的にミステリーの読書量は少なくなります。理の当然ですね。 ですから恥ずかしながら、未だに有名な古典作品で読んでないものが、いくつもあります。クリスティでさえ読み残しがあるし、クイーンもカーもセイヤーズもそう。ハードボイルドなんか、ごっそり残ってます。近々書こうと思っていますが、山村正夫先生のところに出入りしていた頃には「きみは読書量が足りないから」と必読書リストまで戴いたほどで、ありがたいやら情けないやら…。 そんなわけで、戸川さんが担当編集者というだけでなくて、マイ・ティーチャーだったと先に書いたのも、しょっちゅう読書指導をして戴いていたからなんです。折にふれて「誰々の何々はお読みになりましたか」と読むべき本を教えて戴いて、これはずいぶん参考になりました。 それとアイデアを思いついたとき、まず戸川さんに「こんなアイデアがあるんですが、先例がありますかね」とお訊ねします。すると、それは前例がないと思います、とか、誰々の何々に似たアイデアが使われていますよ、とか適宜レクチャーがある。 さて本題ですが、そんな私が目下読書中なのは、現代ミステリーでは『ヘルファイア・クラブ』と桐野さんの『ダーク』、古典ではセイヤーズの『誰の死体?』。オイオイ、というミステリーファンの声が聞こえてきそうですね。 『ヘルファイア・クラブ』は去年の刊行で、ミステリチャンネルのベストワンに推されたもの。本をめぐる謎というのは、やはり本好きには魅力的で、いま上巻の終わり近くですが、ようやくストーリーの本筋が見えてきたところ。これから面白くなりそうで、楽しみです。 『ダーク』は村野ミロ・シリーズの一冊で、四年前の刊行です。桐野さんの本はだいたい読んでいるのですが、これは読み残していました。読むとショックを受けると聞かされていたので…なるほど、たしかに。これの前に読んだのが『水の眠り 灰の夢』だったので、村野のお父さんが気の毒で仕方ありません。桐野さん、それにしても容赦ないなあ… 『誰の死体?』は一度読んでいるのですが、ほとんど忘れてしまっていたところへ、笠井潔さんの評論でこれに触れられているのを発見。再読を始めたばかりです。まだ全然、思い出せないんですけど…どうも本格ものは内容を覚えにくい。クイーンの国名シリーズを、トリックから舞台設定、謎解きのプロセスまでみんな覚えている、なんて人に出会うと、ほんとに尊敬しちゃいますね。 ミステリーではありませんが、内田樹さんの『下流志向』を読み終えたばかりです。へえーっと思わず驚く着想で社会状況の謎解きをしていて、一種のミステリーとしても読めます。面白かった。これはそのうち書評を書いてみようかしらん。 |
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